海外医学生実習
Medical Experience abroad
このページでは、管理人が参加した医学教育振興財団の英国医学部での実習に関する報告書と、ほかの学生さんの海外での実習、また、当院を見学した学生さんの感想文から成り立っています。医学教育振興財団のリンクから来られた方は「英国医学部実習」の部分を参考にしてください。
英国医学部実習 | 医学教育振興財団 | 体験記のリンク | 読者の体験記 |
このページは1997年の医学教育振興財団の派遣の、英国医学部実習に関する大学への報告書をそのまま掲載したものです。(これでポリクリを休んだ分を免除してもらいました)。当時の状況とは幾分違う点もあるかと思いますが、今後財団の派遣に応募する学生さんの参考にこちらに掲載しました。医学教育振興財団の派遣プログラムについて御質問のある方は、掲示板か管理人までメールをください。
英国医学部実習報告書
―Newcastle大学(英国)・Iowa大学(米国)・大阪大学(日本)を比較して−
1997年の春休みに医学教育振興財団の派遣でイギリスNewcastle大学の医学部に1ヶ月間の短期留学をする機会を得ました。
この報告書は、もともと医学教育振興財団にイギリスでの留学の報告書として提出されることを目的としたものですが、この報告書は今回のイギリスでの報告だけではなく、1996年の夏休みに行った米国Iowa大学での実習も含めて大阪大学医学部の臨床実習に対する一提案という形でまとめてみたいと思います。
今回の実習では、多くの得難い先生方に出会い本当に感謝しています。その中でも特に、我々日本人学生の受け入れに力を尽くして下さった3人の先生方について述べたいと思います。
まず、Newcastle大学での受け入れにお世話下さった、Anderson教授夫妻。教授はイギリスの老先生という雰囲気で、サスペンダーでつったズボンをはいてパイプの煙をくゆらし、まさに英国紳士です。
最初にNewcastleの駅まで出迎えて下さったのが、このご夫妻です。ご夫妻はざっと市内を案内してくださった後、自宅で本格的なイギリス料理をごちそうして下さいました。本式のイギリス料理に出会たのはこれが初めてでした。
奥様は温かい雰囲気の方で、イギリスのお母さんという感じでした。ご夫妻のお宅には暖炉があり、壁はアンティークな絵がたくさん飾られ、Newcastle大学病院の絵もありました。(このアンティークな絵は、一緒に実習に参加していた京大生の渡辺君が収集していて、のどから手がでるほどほしがっていました。)部屋の棚に目を移すと、多くの人形が飾ってありました。その中にあった“だるま”はきっと前回の実習生が持ってきたものでしょう。
夕食のあとは、これから1ヶ月間を過ごす宿舎に案内されました。病院の敷地内にこぢんまりとしたきれいな宿舎がありました。Anderson先生は朝食のためにパンやジャム、果物などを用意して下さっていました。また、アイロンやトースターにまで気を配って頂き、初対面で「こんなに親切にして頂いていいのだろうか」と驚くとともに、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
小児科のAlexander先生は、穏やかでハンサムな方でした。(奥様も非常にお美し方でした。)小児科の病棟は宿舎に近く、学生との直接の連絡はこの先生がして下さいました。「Lovely」という言葉がお好きで、これが今回Newcastleでもっとも耳にした単語です。
最後に感染病科のSnow先生、とてもエネルギッシュな方で、安心してついていける方でした。学生の教育にも非常に熱心で、私が最終週の選択期間に感染症科を選んだのも、この先生の指導を受けてみたいと思ったからでした。
最初に4人を二班に分けました。4人一緒では確かに人数が多すぎるでしょう。安全上の問題と年齢から、男女の組を2つ作ることにしました。私のパートナーは札幌医科大学の風間さんになりました。
実習は全部で4週間あって最初の1週間は内科、つぎの1週間が産婦人科と小児科、その次の週が外科とGP(General Practician)、最後の1週間が選択期間で、私は感染症を選択しました。小児科のAlexander先生からのガイダンスがあった後、各班に分かれて回りました。
内科
月曜日
内科の担当の先生は、Snow先生で、私と風間さんは最初の1週間に内科を回ることになっていました。内科では、私たち日本人学生用に内科のダイジェスト版のプログラムを組んで下さっていました。Newcastle大学医学部生とは独立して、日本人2人に対して指導して下さったようです。
初日の午前中は、感染症内科病棟を案内して戴きました。感染症科はNewcastle大学の教育病院の一つであるNewcastle 総合病院にありました。ここの病棟は、この実習の後で行ったLiverpool大学付属病院と同じように、中央に1本長い廊下があって枝から葉が分岐するように各病棟が分かれています。
感染症病棟は隔離病棟と通常病棟に分かれていおり、この日は通常病棟に行きました。この病棟は大きな部屋にしきりを立てて、その中にベッドを並べる配置になっています。日本の大部屋とおなじつくりです。私が会った患者さんはC型肝炎、脊椎損傷、網膜出血の患者さんでしたが、大部屋にごっちゃにされているようでした。
後でも述べますが、決して設備は新しいものではありません。たとえばベットも阪大病院にあるような電動式のものではなくて、ふつうの金属パイプ式のものでした。病院の建物自体がかなり古く、建て増しを繰り返して立てられているようなので、お世辞にもきれいとはいえません。
この日の昼休みは、ちょうど感染症を回っていた医学部3年生と一緒に病院のカフェテリアで昼食をとることになりました。私はラムシチューを頼みました。ラムは嫌いなのですが、これが結構なかなかのものでした。一緒に食事をした学生は3人とも女性でしたが、この大学ではなんと学生の7割も女性だそうです。ちなみにイギリスの医学部は日本と同じよう高校卒業後すぐに進学するので、学年と年齢は日本と同じになっています。
その3人の学生の中には、大学で考古学を専攻した後、再入学した女性もいました。イギリスのシステムでは、医学部も含めて大学の授業料は無料だそうです。ただ、彼女のように再入学だと授業料を支払わなければなりません。私が食事に誘うと「ほかの学生のように一緒に遊んでいられない」と言っていました。私は学士入学なので、彼女の「他の若い学生と同じ様に遊んでいられないの」という態度には、共感を覚えました。
午後はSnow先生について外来見学ということになりました。Snow先生は神経学的所見の取り方を、反射に始まって感覚、運動と丁寧に教えて下さいました。しかし残念ながら私の勉強不足のためになかなか修得できないという有様でした。イギリスの医学教育では、このように聴診と打診を中心とした古典的な診察法というものを非常に重要視しているようです。このような診察診断法重視の教育は、今まで受けてきた教育とはかなり異なるものでした。
この日の夕方からは、「行っても居場所がないよ」と感染症科の医師にいわれたのですが、救急部の方を見せていただきました。救急部は各科が交代で受け持っているようで、ちょうどその日は感染症科が担当だったため、研修医のBrown先生について見学させていただきました。
あわただしい救急部の中で、心筋梗塞らしい患者さんの周りをうろうろしていると、突然、
「今からこの患者さんの問診と所見を採ってごらん。」といわれてしまいました。私がおろおろしていると、「今までやったことはないの?」とせかされました。
「一度もとったことはないけれども、この機会を逃すわけには行かない。」と思い、「はい」と答えて取り始めたところ、
Brown先生に、「君の学校では患者さんの左に立って所見をとると教えるのか」と言われ、たじろいでしまいました。何とか取り終えてやれやれと思ったところに、
「それでは今からまとめてごらん」と言われてしまいました。
「一度もやったことないのに」と思いながら、Iowa大学で、去年の夏見学していたときのことを思い出し、一応「vital sign stable …」とはじめたらすぐに詰まってしまいました。
Brown先生には「大学で教えられたとおりでいいのよ」と言われましたが、何とか切り抜けました。
この夜は、「今日は患者さんがいないから」ということで、夜九時には学生宿舎に戻りました。この晩は同じ宿舎に泊まって実習していた、ニューヨークの医学生のLisaと近所のパブに行き、みんなスコティシュビール片手に、いかにイギリス料理がまずいかで盛り上がりました。この日そのパブでは、地元の子供会のクイズ大会みたいなものがあったらしくて、「ニューヨークのタクシーの色は?」などとスピーカーから流れると、彼女は喜んで「黄色、黄色」などと言っていました。
彼女はコロンビア大学の小児科志望の学生で、来年卒業ということでした。いとこがNewcastleに住んでいるので、実習に来たそうです。帰ったら、しばらく羽を伸ばした後カルフォルニアの大学に入局するのだと、張り切っていました。
彼女は30歳でしたが、もっと若くエネルギッシュに見えたので、
「さすが海外に行こうというアメリカ人は違うな。」と、みんなで納得していました。彼女とはもっと話したかったのですが、翌々日には帰国してしまうということで残念でした。アメリカ人はアメリカが一番と思って、一歩も国外にでないのかと思っていましたが、彼女のように入局する前に、海外実習をする学生もいるのだなと、意外に思いました。
火曜日
今日は朝八時半から、昨日に引き続き、大部屋の朝の回診について歩いた後、Malow先生に呼吸器の診察方法について教えていただきました。この先生も、我々が問診や所見は当然取れるものと思っておられたらしく、
「30分後に戻ってくるからその間に問診をしておいてくれ。」といわれました。
私達は、四苦八苦して問診をし所見をとりました。その患者さんは肺ガンの再発で、右肺が無気肺になっているようでした。患者さんは60歳代の男性でしたが、非常に協力的で、私たちがこの大学の学生でなく、英語もつたないのに、それを全く意に介さないかのように、所見をとらせて下さいました。
所見をとった後にはすぐに、
「今からまとめて発表するように。」とのお言葉です、私達は交互に発表する事になりました。
「今まで日本語のポリクリでもしたことがないのに、ましてや英語でなんてできるか。」とも思いましたが、
「日本の学生はこの程度か。」と思われるのも残念なので、何とか「scouts monkey」の本に従ってこなしました。
正午からは「ground round」という予定でした。私達は総回診があるのかと思っていたのですが、内科全体のセミナーの様なものでした。その日の演題は「右心不全患者の失神発作」で、他の医師や医学生達と一緒に受けました。
午後2時からは倫理学のレクチャーという予定でした。宿舎の食堂に戻ると他の3年の医学生が「倫理学の先生から君たちを授業に連れてくれるように頼まれているのだけれども、倫理学授業はつまらないからさぼりたいのよねー。誰か頼まれてくれないかしら。」とほかの学生に声をかけていました。でも、みんなさぼりたいのか引き受けてくれません。「君たちもさぼってしまえば。」と言われましたが、
「派遣学生という立場上、そういうわけにはいきません。」というと、結局、彼女は我々を教室まで連れて行ってくれた後、どこかへ見えなくなってしまいました。こういうところはどこの国も変わりませんね。
倫理学の授業は感染症に関するものでした。彼女はつまらないといっていましたが、今まで受けた授業に比べると、斬新で、結構おもしろいものでした。3年生向けの少人数制の授業で、3人1組で、患者役、医者役、観察者役になってロールプレイングを行うというものです。
例えば、「エイズ検査を受けたくないという患者を医者が説得する。」という場面設定をして、ロールプレイングを行うのです。その後、先生や観察者役の人が、医者役の人の説明が適当であったかどうか、より良い方法があるかどうか、討論を行いました。
この授業はインタラクティブで、授業のやり方としては非常に印象に残りました。このような授業は是非、阪大でも取り入れて頂きたいと、強く思いました。
水曜日
今日の午前中は神経学です。9:00に病棟に集合したところ、この大学の3年生たちが勝手に患者さんの問診と所見を始めていました。私達がうろうろしていると、4年生の女の子が、「私が所見をとるからついておいで。」といってくれたのでついていきました。
彼女は鮮やかに各脳神経の感覚や反射の検査をして、私たちに説明してくれました。Newcastle大学は、プライマリケアを重視しているのか、学生は神経学的所見の取り方を熟知しているようでした。
彼女と一緒に一通り所見をとった後、12人の学生とセミナー室で椅子に車座に座って先生を待ちました。12人の学生が所見をとった患者さんのうち、パーキンソン病と筋ジストロフィーの患者さんを呼んで、所見をとった学生が発表をしました。その後、先生が患者さんの症状について学生に質問をしながら教えてくれました。質問は容赦なくこちらにも飛んでくるのですが、こちらがまともに答えられたのは、rigidityぐらいでした。
英語もわかりにくいし、肝心の医学的知識がないのでかなり苦労しました。日本人だけで授業を受けているときはまだいいのですが、こうやって地元の学生と混ざって質問攻撃にさらされるとなかなか苦しいものがあります。
昼は、3年生のRobert君と昼食をとりましたが、「今度うちに遊びにおいでよ」といってくれました。彼は私と同じようにグライダーをやっているのでその話で盛り上がりました。この大学にはクラブがないので、地域のクラブに入っているそうです。彼とは結局Newcastle最後の日に飲みに行きました。
午後は、心臓血管の所見の取り方で、医師について心臓所見の取りかたを教わりました。彼は非常に親切で、それまでに受けた授業の中で、最も分かり易いものでした。
「所見をとるときは、まず患者さんと握手をするんだ。」とか、「脈を取るときも患者さんの顔色を観察しながらするものだ。医学生のほとんどは腕ばかりみているがそれではいけない。」など、診察する上での心構えを教えてくれました。このような心構えは今までの臨床実習では教わることがなく、とても印象的でした。そもそも、系統だった問診、所見の取り方、カルテの書き方などを教わることがありません。
この夜は、町に出て大学の近くでイギリスの白衣を買った後、夜は新シリーズのERをみました。イギリスでテレビチャンネルは4つしかありませんが、結構、質の高いドラマを見ることができました。もっともアメリカのものですが。
木曜日
午前中は消化器系の実習ということになっていました。最初は消化器系の病棟で、
「下痢の患者さんが来たときの診断は?」というように、消化器疾患に関する鑑別診断をおこないました。
しかし途中で、心臓病の外来が入り、「僕は心臓の方が専門なんだ。」ということで、心臓外をに他の4年生のNewcastle大学の学生と一緒に見学しました。心臓の外来が終わった後で、また腹部所見の取りかたに移りました。
「触診をするときは右下腹部を中心にしてそこから肝臓と脾臓を触診して行くんだ。」というように、ここでも実践的に所見の取り方を教えて下さいました。
昼休みに学生宿舎に戻って休憩していると、3年の女学生が脳神経の語呂合わせを教えてくれました。最初、スネルの臨床解剖学にでも載っているような、当たり障りのない語呂合わせ「Olympus…」を教えてくれた後、こんなのもあるといって「Oh,Oh,Oh,…」
という下品な覚え方を教えてくれました。僕がもう一度聞き返しても、「他の人に聞いてくれ。」と笑って逃げられてしまいました。
午後は感染症の実習です。去年の報告書にも書いてあったように、この病棟では眼底検査を非常に重視していました。コストをかけずに多くの情報が得られるからでしょうか。
ともかく、この病棟ではHIV感染患者が多くて、そのことだけでも私にとっては初めての体験でした。他の学生たちと一緒に眼底所見の取り方を教えてもらった後、感染症の患者さんの問診と所見の取り方を教わりました。イギリスは、大英帝国時代に多くの植民地を持っていたせいなのか、現在でも、海外で働いたり、旅行にいったりしようという気運がかなり強いようです。それは、言い換えれば持ち帰ってくる感染症も非常に多いということで、HIVやマラリアをはじめとして、感染症をかなり重視しているようでした。Newcastle総合病院だけでも、年に200人のエイズ患者がいるそうです。
ただ、私が問診をとるときに一番抵抗があったのは、患者さんに渡航歴を聞くときに、
「現地の女性と性行為をしましたか。」とか、
「あなたはホモですか。」という質問をあたり前のようにすることです。
「そのようなことをどのように質問すればいいのですか?」と聞いても、
「診断に必要なのだから当然ではないか、君は何でそんなことを聞くのだ?」という反応しか返って来きません。たぶん、医師達は不思議に感じていたのではないでしょうか。ここにも国民性の違いを感じました。
ただ、私自身HIVの患者さんに会うのは初めてで、そんなことはあり得ないと思いつつもどうしても、
「この体の中にはエイズウイルスが流れているのだ。」と、直接肌にふれるのにどうしても抵抗を感じてしまいます。
この夜は救急室のほうにのぞきに行きましたが、「nothing special!」といわれて、もう眠いので帰ってしまいました。
金曜日
今日は糖尿病外来に見学に行きました、この病院では糖尿病に力を入れていて、翌年には糖尿病センターもできあがるようでした。ここでもコーヒー片手に外来を見学しました。糖尿病の患者さんは非常に多いようで、医師もマニュアルに従って半年に1回の定期診察をするという手順ができているようです。血圧を測って、血を採って、簡単な質問をするというだけの外来だったので、すこし見学していると退屈してしまいました。先生もそれを察したのか、
「糖尿病も奥が深くておもしろいものなんだよ。」と、診察後にちょっと注釈を付け加えていました。
午後は、5年生たちと一緒にGP(general practician)の講義を受けました。GPはイギリス独特の医師で、日本でいえば家庭医と保健所をかねたようなところでしょうか。地域住民はみんなGPに登録して、どんな病気でも最初は必ずここにかかって、手に負えない場合に、初めてGPから大きな病院を紹介するという仕組みができあがっています。
講義をして下さったのはGPのMoor先生でした。先生は何回か講演で来日されているようで、日本語のスライドまで用意しておられたのにはびっくりしました。もちろん先生は日本語を話すことはできませんし、学生も判りませんので、私達が英語に翻訳しました。
この夜、Snow先生はご自宅に私たちと、感染症の医局のスタッフを招いて、歓迎会を開いて下さいました。Snow先生の奥さまは皮膚科の医師ですが、料理の腕が抜群で、スコッティッシュサーモンをごちそうして下さいました。イギリスで食べた食事の中ではもっともおいしかったものの一つで、この味は今でも忘れられません。
Snow先生宅でのパーティーは食前酒、前菜から始まって、メインコース、食後酒とつづく本格的なものでした。しかし、この日は今週一週間の疲れがたまったこともあって、食後の紅茶の頃には、ティーカップを持ったまま完全に寝入ってしまいました。Snow先生は笑っていたそうです。イギリス人は夜に強いようですが、我ながら睡魔に弱いことにはほとほと困ってしまいます
産婦人科の実習は、Newcastle大学付属病院であるR.V.I.(Royal Victoria Inflammatory)に行って行うことになりました。Newcastle総合病院との間には連絡バスが30分ごとあって、簡単に行き来できるようになっています。
Newcastle大学では、自分の大学病院に全部の科を置いていないので、臨床実習は自分の大学病院ではなくて、いくつかの教育病院グループを作ってその中を回るようになっているようです。
午前中は婦人科の実習でしたが、どちらかというと周産期科という形で、出産後の診察の外来を見学させていただきました。この日は外来患者がほとんどなくてNewcastle大学の3年生と一緒にかなり暇でした。外来がないとのことで病棟の方へ見学に行きました。すると突然、先生が病棟のベットに鉗子などを用意し始めたのでなにをし出すのかと思ったら、病棟のベットの上で稽留流産の処置を始めました。この病院では一般的に設備が質素ですが、産婦人科でも処置台などを使わずに、ふつうのベッドの上で処置を行います。さすがに、妊婦産も初産の流産で精神的にショックを受けており、医師は「今回の流産はあなたにはいっさいの責任はないから。」ということを何度も繰り返していました。
午後は産科の見学ということで、最初は帝王切開を見学しました。その後は自然分娩を見学させてほしいと頼んで、陣痛分娩室の方へ待機していました。この病院では日本と違って助産婦の仕事をする範囲が広いようで、たとえば子宮開大など出産経過を検査するのもすべて助産婦の仕事で、医師は異常出産に備えているような雰囲気でした。
自然分娩は是非とも見学したかったのですが、残念ながらこの日は分娩はなさそうでした。しかしそれに併せて、「何で男子学生がここにいるの?」という雰囲気で居場所がなかったということもあります。残念ながら見学することができずにこの日は帰りました。
Newcastle総合病院の外来待合室が大阪大学と大きく異なる点は、外来待合室は、通路と切り離されている点です。大阪大学の外来待合室が廊下の一部分になっているのに対して、ドアで仕切られた独立した部屋になっているので、子供たちは安心して待っていることができますし、また親もほかの患者さんたちに気兼ねをすることなく、子供達を遊ばせておくことができます。
待合室には、子供たちが遊んでいられるように、様々な遊技器具やファミリーコンピューターなどがあります。しかしそれだけではなく、患者さんへのサービスとして待合室の中に小さな売店があることに驚きました。この待合室はボランティアで運営されています。私たちが訪れたときもかなり高齢の御婦人が2人おられて、
「何かいかがですか」と声をかけて下さいました。
この日は、まず最初に病棟を見学しました。どこでもそうだと思いますが子供は外傷による受診が多いということで、小児外傷に関する質問が多くありました。これは、この後に訪れた、LiverpoolのAlder Hey小児病院でも同様でした。この後は外来を見学しましたが、かなり便秘の患者が多いという印象を受けました。
アレキサンダー先生が、「昼の1時から講義があるけれど、食事もでるからおいで。」とおっしゃっていたので、どのような意味かと思っていたら実は製薬会社の宣伝でした。ほかの学生たちは「退屈だよ。」といっていましたが、食事がでるからか、結構出席していました。サンドイッチとジュースがでて、一通り製薬会社の抗生物質の宣伝をみさせられました。
午後は小児の感染症という題で肺炎の授業でした。ここの学生は3年生にもかかわらず読影などに相当慣れていて、また積極的に発言していました。このような講義は、日本でいえば実習班ごとに行われており、発言もしやすく、いわゆるインターラクティブな授業になっていました。私も積極的に発言したかったのですが、なかなか抗生物質の名前がでてこなくて苦労しました。しかし、私が答えを間違ったからといっても、笑うのではなくて
「それも一理ある(とてもあるように思えませんが)、しかしこちらの方がいいだろう。」という形に、非常に発言のしやすい雰囲気でした。
この夜は、知り合いになった同棲中のカップルの家を訪ねました。すき焼きパーティーをして、楽しいひとときを過ごすことができました。
水曜日
今日も、R.V.I.で小児科の実習ということになっていました。朝は新生児の黄疸ということでミニレクチャーがありました。質問したかったのですが、発言者のレベルが高すぎて、結局何の質問もすることなく終わってしまいました。案の定、出席者たちは小児科の医師でした。しかしこの講義での、「新生児黄疸は鉄を補給するために生理的に起こるんだ。」という説明が印象的でした。9時からは回診に参加しましたが、内科の時ほどは教育熱心ではなかったので、ちょっと残念でした。
回診の後はまた昼食がでるからといわれたのでついていったら、昨日と同じ製薬会社の主催のもので、向こうもこちらの顔を覚えていて、「あれ。」というような表情をしていました。ただ、今日は医師が中心ということで、昨日に比べると昼食の内容は仕出し屋に頼んでいるようで格段に上になっていました。
午後は、病院の全体での代謝病の講義にロンドン大学から先生が来ていたので、それに出席しました。その間、小児科にいたリビア人の先生がずっと一緒でしたが、彼は、「今リビアはテロリストの国ということでどこでも受け入れてくれないので、勉強するのに大変苦労している。」と話してくれました。ここまで苦労して勉強している先生がいるのを知ると、いかに自分の環境が幸せか考えさせられました。
木曜日
この日は外来にあるセミナー室で、GPの先生から小児科の病気の統計について講義を受けました。午後は外来見学で、この日はてんかんの患者さんが多いようでした。
金曜日
この日はGP surgeryの見学の日でした。”surgery”の見学というので、GPでは小手術もするのかと勘違いしていたら、”surgery”というのは、診療所もしくは診療のことで、「午後、”surgery”があるんだ。」というのは、午後にも診察があるんだという意味でした。
結構イギリスには独特の用語があって、たとえばOperation roomをtheaterといったりします。私たちが訪れたProspect診療所はNewcastle総合病院の近くで、どちらかといえば所得水準の低い地域にありました。この診療所は7人の医師で運営されていて。そのうちの一人の医師の診察を見学させていただきました。診察は、日本の個人開業医とそれほど変わらないように感じましたが、感心したのは、患者さんのカルテが生まれたときからすべてファイルしてあることでした。保存しやすくするためか、すべてのカルテは定形封筒に入るぐらいの大きさになっていて、引っ越すときはそのカルテを持って新しいGPに登録することになっているようです。これはイギリス国民だけではなくて、外国人でも登録することができて、Newcastle大学の留学生も登録しているようでした。昼にはこの診療所の女医さんと近くのベジタリアンの店で食事をしました。
午後は、診療所の看護婦さんの仕事を見学させていただきました。彼女はまだ20歳ぐらいでしたが、外国人の私たちのために一生懸命薬の使い方を説明してくれました。注射や検査などは彼女が行うことになっているようです。
彼女が行った検査で最初わからなかったものに、大きな注射器で耳の穴に温水の生理食塩水を注入すると、大きな黒い固まりがごっそり取れるというものがありました。後で、教科書をみてみると、GPで行う手技の中に、耳垢が詰まったものを取り除くということがありました。この処置もある意味で印象に残りました。
この日は夕方4時からの診察も見学させていただきました。この時間は精神障害の患者さんが多かったようです。GPになるには精神科の知識もかなり必要なようでした。
医師がいうには、「このあたりは所得水準が低いから精神的な問題も多いんだ。」とのことでした。彼らが、わざわざ希望してこの所得水準の低い地域の医師になったのかは、こちらが質問しても曖昧に答えるだけで、結局よくわかりませんでした。
昼は往診について行きましたが、そこもかなり所得水準の低いところだと説明してくれました。
月曜日
今日は救急部の見学です、最初救急部で待っていると、いきなり心筋梗塞の患者さんが運ばれてきました。心肺蘇生法を行っていましたが、脈拍が戻りません。心臓マッサージをやめると見る見るうちに青くなっていきました。しかし、医師達は慣れた様子で、特に急いでいるのでもなく手順通りこなしているという感じでした。いよいよだめになると、「この奇妙な心電図がでたらだめなんだ。」と言って、3年生には心臓マッサージの練習、研修医には挿管の練習をさせ始めました。
次に来た患者さんは、見るからに心臓発作のような重篤な症状に見えましたが、
「これは単なるヒステリーだよ、こういう患者が多くて困るんだ。」とのことでした。
日本でいうところの1次救急から、3次救急まで診察していて、珍しい患者さんとしては、眉毛にしていたイヤリングが取れなくなった男性が、指輪カッターで切ってもらっていました。
また、口内にカンジタ症様の症状の若い男性がきていて、
「この若さでカンジタ症があったらエイズと思って間違いない。」といわれて、患者さんはかなりショックを受けていたりもしていました。
火曜日
今日はR.V.Iで外来見学でした。一般外科の外来見学でしたが、消化管出血の患者さんが多いようです。肛門鏡は日常的に行う検査のようでした。ここでも、コーヒーとクッキーを頂きながらの見学です。日本であまりみられなかったのですが、血栓性表在静脈炎の患者さんが非常に多かったのが印象的でした。ここでは4年生の学生が、全員の予診をとっていました。先生も、「ヘルニアの種類を見分けるには、患者に咳をさせるのが一番良い。」と、診察の仕方を教えて下さいました。
午後には、病棟実習でヘルニアの患者さんの問診と所見をとらせてもらいました。この患者さんはドイツ人で、「戦前は日本にも行ったことがある。」と話してくれました。
水曜日
今日は手術の見学です。先生は甲状腺の専門家で、6つ見学した手術のうち3つは甲状腺摘出術でした。珍しい手術は静脈瘤抜去術で、下肢静脈瘤が多いためこの手の手術は多いようでした。
この日の夕方は、Anderson先生が自宅に招待して下さって、Snow先生夫妻やAlexander先生夫妻も参加されてにぎやかなパーティーでした。Alexander婦人はたいそう御美しくて、さすが“Lovely”な先生は違うなと感心してしまいました。
木曜日
午前中は小手術で、昼からの病棟回診がキャンセルされてしまったのでこの日は午前中で終わり。
金曜日
午前中は、他の4年生2人と一緒に外来の見学です。最初に、ここの学生が予診をとってからの診察で、今日だけでも彼らは10人近い予診をとるのだから力が付くのは当然だなというところです。
お昼には血管造影のカンファレンスでここでもサンドイッチとともに見学です。ともかくどこでもお茶がでます。血管造影のほとんどは腸骨動脈狭窄で、動脈硬化がとても多いことを感じさせられました。
ただ今回の外科の実習で残念だったのは、イギリスではB型肝炎とBCGの予防接種を受けていないと手洗いをさせてくれないようなのです。ですから、来年参加する学生は是非とも予防接種を受けておいた方がよいでしょう。
月曜日
これから一週間は選択科目の週で、僕は感染症科を選択しました。最初は産科婦人科を選択していたのですが、あまり科の雰囲気が良くなかったことと感染症科の方がいろいろさせて頂けそうだったからです。また、日本ではあまり見られない病気を診れるということもあります。実際、この週が一番印象に残りました。
今日は、感染症病棟に行って、3人の3年生と一緒に患者さんの問診と診察を行うことになりました。ここの学生は1人に1人ずつ患者さんを割り当てられましたが、私はMattというまじめな学生についていくことにしました。ほかの2人は遅刻のようです。
最初は、28歳のHIVの患者さんの問診と所見でした。Mattは結構慣れているようで、次々と所見をとっていきました。
それをSnow先生の前で発表します。病棟のカルテを写すだけでも済んでしまう日本の実習に比べると、勉強になる量が格段に違います。続いてお昼からはEdleward先生が腹部所見の取り方について指導して下さいました。彼は、エチオピア出身のレジデントでしたが、非常に親切に指導して下さいました。アメリカでもそうでしたが、医師の層の厚さが、この国の医療を支えていると感じます。
この日は15分しか昼食をとる時間がなくて、午後は引き続きHIV患者さんの問診と所見取りです。今度は、マレーシア出身の3年生についていきました。彼にどうしてマレーシアの医学部に行かなかったのかと聞くと、
「マレーシアには医学部は5つしかないし、レベルもそんなに高くないから。」との返事でした。卒業後はマレーシアに帰るか、それともイギリスに残るかはまだ考えていないそうです。
元々植民地であるからか、マレーシアとイギリスの関係は今でも深く、多くのマレーシアからの留学生を見かけました。また、この学校では4年生で3ヶ月間の選択実習で全員が海外の医学部での実習するのですが、その実習先としてマレーシアは南アフリカと並んで人気があるようです。マレーシアでは医学教育を英語で行っているので全く問題がないようです。よく考えてみれば医学教育を母国語で行える国が世の中にいくつあるでしょうか。
ここの学生に、「選択期間の時にどうして日本に来ないのだ」と聞いたら、「日本語は分からないし、物価が高いからいけない。」との答えが返ってきました。
この日の午後は所見は僕にとらせてもらいましたが、彼はとても慣れていました。彼は潔癖症なのか、所見をとった後は手がすり切れるくらいに手を洗っていました。
日本と違って難しいのは、宗教の問題があります。彼に興味があったので、学校のあとにのみに行こうと誘いましたが、別の学生から
「彼はムスリムだよ。」といわれました。実は、彼がイスラム教徒なのにも関わらず飲みに行こうと誘っていたのです。
火曜日 (免疫学講義)
今日の午前中は外来見学です。実はこの臨床実習班は全部で4人で、1人は昨日さぼっていたのです。学生の気質は日本とあんまり変わらないのでおかしくなってしまいます。もっとも、もし日本の臨床実習班に外国人が入ったら、こんなに自然に扱えるかは疑問ですが。
外来では、おもにHIV患者さんの経過観察を行っていました。一番気を付けていることは、CMVによる網膜炎のようです。
お昼は、症例発表があったのですが、他の学生がみんなさぼるといっているのでさぼるのも実習のうちと、お昼はスキップしてしまいました。
午後は、自己免疫疾患の授業でしたが、日本の授業と違って臨床実習班6人の少人数生のインターラクティブな授業でした。そのうち3人が女性というのも大きく異なるでしょう。Iowa大学での授業とも、全体的に学生が若いところが違っています。
ただ、Newcastleでも、Iowaでも、こちらを外国人扱いしてくれないので、イギリス人学生と一緒のネイティブスピードの授業についていくのはかなりしんどかったです。発言しようとしても、ここの学生が先に答えてしまい、なかなか速度的に追いつくのが難しかったです。たとえ答えられたとしても、その後につっこまれると聞き取れないので、なおさら容易に答えられないという悪循環が続きます。せめて医学的知識さえあれば、何とかなるのにと思うのですが、臨床知識がないとどうしようもありません。私が、1時間半の授業でやっと発言できたのはシューグレン症候群ぐらいでした。
ただ授業中は、向こうの学生も結構リラックスしていて、
「このスライド写真で気づくことは?」と聞かれたときに、学生が「鼻が低い!」と答えて、先生から「もっと科学的に」と言われたり、気管切開した後の写真を、気管切開痕について述べるのではなくて、患者さんが着けているのを指摘して、」
「ネックレスじゃないの?」と言って笑われてみたり、結構笑いのある授業でした。
授業の内容は阪大のように病理中心のものとは違って、臨床診断学が中心のものでした。
水曜日
午前中は病棟の実習で、また患者さんを診察しました。この患者さんは奇妙な発疹があって医師より問診をとるようにといわれていたのですが、とてもつらそうだったので、問診をとることができませんでした。
午後は、以前内科の時にお世話になったGranger先生の心電図の講義を受けました。彼は研修医を終えて2年目の先生でしたが、非常に系統立っていて、こんなにわかりやすい授業は今まで聞いたことがありませんでした。
彼は、私たち4人に将来は何科に行きたいか質問しましたが、私が、
「外科を考えている」と言うと、「外科の奴らはみんな頭が悪い、心電図一つ読めないではないか。」と言っていました。このような悪口は国を越えて共通のようですね。
木曜日(微生物学講義)
今日は、午前中ウイルス学の講義がありました。最初は、病理学棟にある地下の講義室と秘書さんに言われたので、湿気の多い倉庫のような場所に集合しましたが、先生自身が、「こんなところで講義をするのはたまらない。」と、屋上にあるガラス張りで眺めの良いセミナー室に変更しました。ここからは病院の敷地が一望にでき、天気も良く最高の行楽日和でした。
講義があるのかと思っていたら、「今から2班に分けて場面を割り当てるから、各班で勉強しておくように。お昼になったらロールプレイングゲームを始めよう。」とおっしゃいました。私達の班は、
「ドイツ旅行にいったときに、泊まった宿の犬にかまれて、イギリスに帰ってから心配になってG.P.にかかった。」という、状況設定でした。
みんな2時間以上も暇があるので、学生宿舎のなかでだらだらしていました。私が、日本への荷物を発送しに郵便局に行って帰ってくると、すでにロールプレイングの配役が決まっていました。
私の役はドイツのホテルの主人で、イギリスの医師から問い合わせがあって、それに対して「私の犬がそんなことをするはずがない」と答える役です。他に患者役、GP役、保健所、ドイツ警察、感染症センター役等みんなで寸劇を行いました。
おかしかったのは、犬役の女の子が、私達日本人学生が毎朝、食べていたコーンフレークの空き箱を切り抜いて、犬の耳と牙を作っていたことでした。
ロールプレイングを素にして、微生物学から公衆衛生まで教えるやり方は非常にうまい方法だと感じました。このような方法は是非とも大阪大学でも導入してほしいですし、また現在、私が主催するサークルのupNetでも実験的に行っています。
最後に先生に、「私は日本から来た学生ですが、このようなスタイルの授業をみたことがないので非常に印象に残りました。」と言ったら、先生は留学生が混じっていることに気づかなかったらしくて、「遠くからわざわざ。」と大変喜んでくれました。さらに、
「ポリクリ班はたくさんあるから、毎回同じ授業をするのは退屈ではないかと。」と質問すると、「It’s my pleasure!」とおっしゃっていました。どの先生に当たっても非常に教育を重視していて、こちらもここまで自分の時間を犠牲にしてくれるのかというくらいにかまってくれました。同様の返事は、Iowa大学に行ったときにも返ってきました。
今まで同じ質問をすると、
「同じ授業を何回も繰り返さなければいけないではないか、こちらは忙しいんだ。」という返事が返ってくることが大半でした。
金曜日
今日で今実習の最終日です。病棟に午前中行くと、「今日は総括だから、患者さんの問診と所見をとっておいで。」といわれて、患者さんを紹介されました。この男性の患者さんは気胸を繰り返していて、何年間も気胸ということで治療されてきたのです。しかし、実はカリニ肺炎だったのです。昨日、HIV陽性という結果が出たため、この病院へ転送されてきました。
問診を取っている途中に看護婦さんに、「今ボーイフレンドがくるから。」と言われたので、「なんのこっちゃ」と思っていると、本当にボーイフレンドがやってきました。彼が、
「30分くらい席を外してほしい。」というので、席を外して戻ってくると、彼のボーイフレンドがトイレの世話をしてあげているところでした、わたしは、
「失礼!」と、すぐにでてきてしまいましたが、
「これが愛なのかな」と新鮮な感動を覚えました。彼にとっても、パートナーがHIV陽性ということはどれだけ衝撃的なことでしょうか。
午後に再び訪れて、所見をとらせてもらって、この実習の終わりと言うことになりました。次にそのときの、私がとった外来カルテを添えておきます。
History
Patient Name: David Lyon(仮名) Sex: male Age: 30
Present Compliant: dyspenea, loss of weight, loss of appetite
History of presenting illness:
Jan. 96, He had loss of appetite. He also had lost weight 15Kg by July. In July, he saw a consultant and got diagnosis of Diabetes Mellitus. Then he started insulin injection and he had gained his weight 7Kg by October. However, in October he had a fever, chest pain and productive cough. He went to GP, then Chest X-ray showed infection and left pneumothorax. In November, he developed right lung pneumothorax. He has not gained his weight until now. On Feb 2, he had difficulty of breath due to the right lung collapse. Vacuums were carried on. On Mar.19, the left lung collapsed. Because PCP was suspected, He was admitted to examine and treat it.
Mar.20 He was diagnosed as HIV infection.
Pest Medical History: n.p.
Medication: n.p.
Allergy: n.p.
Family History: Mother had bronchectasis.
Social History:
Smoking: 10/day
Drinking: Social drinking
Sexuality: Homosexual. He has not changed the present partner since 3 year ago. He had had 10 sexual intercourses until he started with his current partner.
Physical examination
Vital Sings Pulse: 116 BP: 125/85 Temp: 36.5
Upper Extremities: no clubbing, no nail deformity, no peripheral cyanosis.
Head and Neck: no vision problem, no anemic, no icteric ,no cyanotic, no ulcer on mouth mucous, no lump, no lymph node swelling.
Chest: He has rub. 9 scars are on chest wall. No murmur No palpitation
Abdomen: He has hepatomegary for 3 fingers. His abd is soft and flat.
Lower extremities: He has swelling on feet. pedis dorsaris palpable. No candidates.
ここで、この大学の授業の仕組みを申し上げておきましょう。イギリスの医学部は日本と同じように学部ですが、5年制になっています。ただ教養課程がないので、1年目から医学教育が始まることになります。また卒業してすぐに医師になるのではなくて、卒後2年間のインターンを経た後に、医師になることになります。
授業と実習の流れですが、1年生と2年生は、解剖学、生化学等の基礎医学を学びます。
3年生になるとここが日本と大きく違うのですが、3ヶ月間1週間づつ“臨床イントロダクション”という講義と実習を受けます。ここでは主に問診と所見の取り方を学びます。ここでは、内科総合、心臓、呼吸器、消化器、運動器、内分泌、腫瘍、外科、小児科を回ります。ここで、統一のとれた問診の仕方と、各分野の基礎知識を教わることになっています。
その後は必修の臨床実習を4週間づつで行います。学生はおよそ170人いるので、だいたい14人ずつ12班に分けて行うようです。このように多くの実習班を受け入れることができるのは大学付属病院だけではなくて、多くの教育病院を持っているからでしょうか。この必修の臨床実習のおもしろいところは、必修の科が生化学、成人病、職業病、感染症、腫瘍と言うように、日本の分類や考え方とは相当違っているところです。GP養成を中心に考えているからか、社会的なものを中心に扱うようです。
それが終了した後の、総合試験の後に、こんどは、4年、5年は選択種目を7週間単位で回ります。選択科目は全科に及んでいて、最大2人づつまでうけいれるようです。4年の終わりの選択期間では、前にも述べたように3ヶ月の海外での実習があります。
臨床講義の方は、臨床実習中に各科の中に行います。また週に一度、毎週金曜日には大学の方で、学年全体の日本と同じ様な講義があります。ここの学生はこの全体講義は、「It is terribly boring」といっていました。
卒業の時点では、国家試験や卒業試験ははないそうです。
卒業後、研修の1年目はH.O.(House Officer), 2年目から4年目まではS.H.O.(Sinner House Officer)と呼ばれます。ここで、内科、外科、小児科、産婦人科を回ることになります。日本でいうところのスーパーローテーション方式です。S.H.O.の間に国家試験を受けて、内科ならMRCP,外科ならMRCSという称号の医師になります。
このようにNewcastle大学では大学教育も、卒後研修も、臨床医師養成という色彩が強く、大阪大学の研究医中心というものとは大きく異なっています。実際、50%もの学生がGPを選択しているので、特に臨床医指向が強いといえるでしょう。
男子学生はおしゃれで、ネクタイもお洒落なものをしている人が多いです。どちらかというと女子学生の方が地味です。こう女学生が多いと、男子学生が萎縮してしまうのではないかと思うのですが、実際はどうなのでしょう。
Iowa大学の学生とも違い、日本の学生と同じようにかなりのんびりしているようです。特に3年生はそれほど勉強や実習に対する義務がないので、昼休みなどはかなり学生宿舎でくつろいでいます。
学費は無料ですが、下宿代は自分で払わないといけないので、学生同士で共同で住んでいる学生が多いようです。私達を誘ってくれた学生も、5人で1つのアパートを借りていました。
出身は多岐にわたっていますが、卒業後もこの大学の大学病院に残る人が多いようです。これはIowa大学の学生が、卒業ご自分の大学にほとんど残らないのと違って日本的です。
イギリスにも日本と同じように、語呂合わせというものがあって、それを採集するのもおもしろいかもしれません。たとえば、脳神経の覚え方などはスネルにもつまらないものが載っていますが、本当はこのように覚えるそうです。
1.Oh! Olfactory
2.Oh! Optic
3.Oh! Oculomoter
4.To Trachantor
5.Touch Trigeminal
6.And Abducent
7.Feel Facial
8.Vargin Vestibulocochler
9.Girls Glossopharyngeal
10.Vaginas Vagus
11.And Accessory
12.Hymen Hypoglossal
ちなみに、この語呂合わせは女子学生から聞きました。
この実習プログラムにはとても感謝しています。海外で実習をできたことに加え、実際に、多くの新しいことを学びました。今回の実習は阪大での実習以上に勉強になったと思います。今後とも是非このプログラムを継続して頂きたいと思います。
今後の希望として、このプログラムを継続して頂けるのならば、以下のことを付け加えて頂ければと思います。
1.学生の臨床実習に完全に混ぜてほしい。
今回の実習では4週間の実習期間のうち3週間は、私達のために組んでいただいた特別プログラムでした。最後の1週間だけ、地元の医学生のポリクリに参加したという形になっています。
しかし、最後の1週間の方が学生とも仲良くなることができた上に、多くのことを学ぶことができたと思います。来年からはNewcastle大学の学生と共に、臨床実習を行うという形にしていただきたいと思います。
2.選択の期間を増やしてほしい。
今回は、1週間しか選択期間がありませんでした。1.で述べたように、学生と一緒に行うということを考えると、最低でも2週間はほしいと思います。
3.日本の医学部にもイギリスの学生を派遣してほしい。
今回私達がイギリスに行ったわけですが、是非イギリスの学生も日本に来てほしいと思います。選択期間の対象に日本の大学に興味を持っている学生は多いのに、語学の面から訪れることができないのは残念なことです。
いずれにしよ、今回の実習ほど心に残ったことはありません。このようなプログラムが多く作られて、より多くの学生が参加できればすばらしいと思います。
それぞれの国の教育システムが違うため一概にはいえませんが、Newcastle 大学、Iowa大学と比較して、大阪大学の優れている点、問題点についていくつか考えました。
イギリスの大学では、臨床医学に非常に力を入れています。より実践的に学生のうちから参加するということです。機械や検査に頼らない検査方法ということにも力を入れています。また、教育病院を数多く設けることで教官を多く配置し、学生と教官の距離が近いということはなによりうらやましく感じられます。医学部を含め、学費がただと言うのも良い点でしょう。
しかし逆に、お金がないから検査に頼ることができないということも意味していると感じました。また、高校を出てすぐに臨床の勉強だけを始めるので、高等教育の幅広く学ぶとことは、ないようです。日本では2年間の教養、アメリカでは学部の4年間に相当するものがありません。この期間がないのは、高等教育機関という観点からは残念なことです。
臨床実習での選択期間は充実していて、3ヶ月間、海外の病院で実習することを義務づけているのは、他の国での医学についての考えを知るにはいい機会だと思います。
アメリカの大学では、学生は学部を終了したあとで進学してくるので、学生がすぐに医学的なことに参加でき、だれないという利点があります、教育システム、臨床実習システムがともに洗練されているといえると思います。学生はチームの一員として、まるで日本の研修医と同様に参加していました。最初に学生が予診をとって、次に研修医が診て最後にスタッフがチェックするというシステムが、きちんとできあがっているように思えます。
教授も教育を重視していて、非常に学生に近く感じました。アメリカのどの病院もそのように感じました。また、どのような場面でも自分で選択できるという点もあげられます。研修病院も自由に選ぶことができますが、逆に自分の大学に残れるとは限らないので、一長一短というところでしょうか。
問題点としては医師になるまでに非常に時間がかかるので、年を取りすぎるということです。学部卒業に4年、メディカルスクールで4年、研修医で5年の最低13年かかってしまいます。また、学生の多くは学費をローンで組んでいるので、卒業したら借金を山の様に背負うという問題もあります。
私は大阪大学では決して成績の良い方ではではありません。授業もよくさぼりますが、「何で上野がこんな偉そうなことをいえるんだ」という批判を押して、今までの海外の実習経験から、大阪大学の授業を比較して私見を述べさせていただきたいと思います。
最初に大阪大学の方が優れていると思われることについて、
1.基礎医学や、研究を重要視している。
現在の臨床医学は膨大な基礎研究の蓄積の上に立っているのですから、医学に基礎研究は欠かせないものだと思います。Newcastle大学では、臨床医学や診断学に偏りすぎていることは否めないと思います。
2.医学専門学校的ではない
Newcastle大学では、1年生から医学教育が始まるので高校卒業後すぐに医学専門教育のみを受けることになってします。それに対して、大阪大学では2年間の教養課程、Iowa大学でも4年間の学部時代がありますので、医学以外の勉強や課外活動をして幅広く知見を広める機会があります。
次に大阪大学の問題点について私見を述べてみたいと思います。最初に講義について述べます。
1.講義が一方通行である
Newcastle大学でも、Iowa大学でも講義中に、先生は学生の間を動き回り、質問することが多かったです。一方的に知識や、研究内容を講義するというのではなくて、質問をしながら学生に考えさせて、授業を行っていました。
現在、大阪大学では、先生は教卓に立って一方的に話をするだけという授業が多いので、学生も飽きてしまうというところがあると思います。
2.授業に工夫がない
Newcastle大学では、討論会やロールプレイングと言った形の、学生自身が参加する授業が多く行われていました。現在、大阪大学では先もあげたように先生が一方的に話すという授業がほとんどなのは、残念なことです。
3.自分の研究に偏りすぎて、基本的な授業がない。
大阪大学では、授業内容があまりにもトピック的なことに偏りすぎていると思います。確かに、教科書に載っていることを授業中にやっても仕方がないとは思いますが、まるで学会発表のようになってしまっているので、興味のない学生にとっては厳しいところです。
4.臨床講義が基礎医学に偏りすぎている。
Newcastle大学でも、Iowa大学でも臨床の授業と言ったら臨床の授業でした。大阪大学では、あまりにも診断学的な授業が少なすぎると思います。確かに基礎医学も大事ですが、臨床講義と銘打っている以上、学生としては臨床の講義を求めているのです。しかし実際の内容は、基礎の授業という感じになってしまっています。
次に、臨床実習について述べたいと思います。
1.全体的を通してのプログラムがない
Newcastle大学では最初に基礎的な所見の取り方のポリクリがあったあと、各科を回るといったような全体の構成を考えた、臨床実習のプログラムがあったのに比べると、大阪大学では各科をただ単に回るだけで、それぞれの科ではよく考えて教育してくれるのですが、たとえばカルテの書き方一つどの科でも教えてくれないという風になってしまっています。また、学生は、事前になにをするか判らないので、予習をするのにも困ってしまいます。
2.選択期間がない
学生実習では、一つの科に一ヶ月以上いて研修医並のことをさせてもらうという期間が、Newcastle大学でもIowa大学にもあったのですが、大阪大学では1―2週間ずつの定食実習しかないので、どうしても通り一遍の見学に終わってしまっていることが残念です。。
3.学生がなにもできない
Newcastle大学や、Iowa大学では、医学部生が臨床実習中に外来患者さんの予診をとったり、入院患者さんの管理や手洗いをしたり等、日本の研修医並のことをしていました。対して、大阪大学では多くの科で学生は見学だけに終わってしまい、なかなか患者さんにふれあう機会がないという点も残念です。
4.学生指導グループがない
Iowa大学では、医学部生、junior resident, senior residentという形で一つのグループを作っていて、上の先生からの指導を受けやすかったです。それに対して、大阪大学では1年目の研修医に学生を付ける場合が多く、研修医の先生自身、自分のことで精一杯なので、なかなか面倒をかけにくいという問題があります。
5.海外で研修する機会が少ない
Newcastle大学では4年生の時点で全員が海外の医学部で、研修学生として研修する機会があるのに対して、大阪大学ではそのような機会がほとんどありません。
6.評価システムがない
Iowa大学では、医学教育に関する専門の講座が存在し、Newcastle大学でも同様の仕組みがあったのですが、大阪大学では授業の内容や講義内容に関して評価するシステムがありません。最近、一部の有志の学生が自主的にアンケートを行っていますが、先生方にも好評のようです。このようなフィードバックを毎年繰り返してほしいと思います。
全体について
1.カリキュラム作成と変更について理念と理想、長期計画をもってほしい。
現在、大阪大学ではカリキュラムを良くしていこうという気運が先生方にも、学生にも起こってきていますが、残念なことはそこに
「大阪大学とはこのような大学であるべきという」理想や、最終的な長期計画が無いように見えます。そのため、基礎指向の人は基礎のカリキュラムを拡充しようと主張しますし、プライマリーケアー指向の人は、臨床診断学的なカリキュラムを拡充しようとします。
まず改革案を作るためには、大阪大学の理想的なあり方が必要だと思います。日本にはいくつもの医学部があるのですから、臨床を中心とした指導をする大学や、基礎研究を中心とする大学があってもいいと思います。大学によってそれぞれの特長があってもいいでしょう。
たとえば、学生教育においては、A大学では臨床専門家中心で、B大学は基礎中心という考え方もあるでしょう。プライマリーケアーがやりたい人は別の大学に入学してもらうことにすればいいと思います。そうすれば、入試の時も学生は自分の興味にあわて選択することができます。
そのような理想があるならば、自ずと教育のカリキュラムも決まってくると思います。
2.いくつかの大学と医学教育について統一的の評価を行う
カリキュラムを改善していく上では、ほかの大学との比較が重要になってくるのは当然です。今回のように海外の医学部のやり方を学ぶというのももちろん大切ですし、また日本の大学同士でも他大学の実習の仕方を調査研究して、良い点は取り入れていくということが必要でしょう。
そのためには、学生が、他の大学の臨床実習に参加するのも良いと思います、また、統一の評価表を作って、それを公衆衛生学実習でも調査してみるなどは、一つのアイデアかもしれません。
3.臨床講義と実習の並立
現在の臨床実習では、大半の臨床講義と実習は別々に行われますし。講義も1対100で行われるものがほとんどです。少人数制のインターラクティブな授業や、ロールプレイングのような授業を多くするためには、現在の臨床講義1年間、臨床実習1年間という組立ではなくて、2年間で臨床期間にして、臨床講義と臨床実習を平行して行うべきだと思います。
講義について
1.少人数制
講義の人数は12人くらいで行えたらと思います。先生は同じ講義を8回もしなければなりませんから、大きな負担を強いてしまうことになりますが、現在の講義数を大幅に減らして、内容を濃くすることによって対応できると思います。
講義する範囲が少なくなっても、多くの学生は教科書によって十分対応できると思います。
2.インターラクティブな講義
現在の多くの講義のように、前で先生が話すだけでは教科書や論文を読んでいるのとあまり変わりません。授業中には知識を付けるよりは、発想法やものの見方を学びたいのです。そのためにはロールプレイングや討論会は大きく役に立つと思います。
臨床実習について
1.基礎(必修)臨床実習と選択臨床実習
臨床実習のシステムとしては、Newcastle大学の方法をかなり取り入れてもよいと思います。まず最初の1年間は基礎臨床実習として、内科統一、外科統一、小児科、産婦人科、接客マナー(医師患者関係)などを学びます。
内科統一では問診、所見の取り方、カルテの書き方、発表の仕方などを学び、また実際に循環器、呼吸器、消化器、免疫、神経等のBTSをうけます。
外科統一では患者管理、小手技、などを学んだあと、一般外科、ICU、麻酔、救急などでBSTを行います。
接客マナーは患者との接し方等を学び、精神科、公衆衛生、法医学などでBSTを行います。そして、後半1年間は1―2ヶ月づつ各選択の中から回ります。必要ならば、各科目をいくつかのグループにわけて、各グループからの選択にしたらよいと思います。選択期間で重要なのは、どの実習グループでも、最大学生収容人数を2人までに押さえるということでしょう。
選択期間の中には、是非、海外の医学部も選択肢の一つとして組み入れて頂きたいと思います。
2.チーム式教育グループ
各科を回るときに、医学生、研修医、指導医というチームを作って、医学生の人数は2人くらいまでにできたらと思います。選択制にするのは、各科に配属される学生の数を減らす目的もあります。
医学生は、医師の指導の元に予診をとったり、また、ある程度診察の練習をできたらと思います。
3.選択ポリクリと基礎配属の選択
アメリカや、イギリスの大学では基礎をやりたい学生が、特別に基礎の学年を取ることができる制度があるようです。それに変わるものとして、現在の基礎研究室配属を選択ポリクリの一つとして取ることができるようにするというのがいいと思います。
そうすれば、基礎の関心を持っている学生はじっくりと1年間基礎の勉強をできることになりますし、関心のない学生にとっても、基礎配属が単なる遊びの期間になるのを防ぐことができると思います。
4.安全対策について
イギリスでは、B型肝炎とBCGの接種は学生は義務になっていました。できるだけ処置や診察に参加するために、早い段階から予防接種などの安全対策を行ったほうがよいと思います。
また、保険にも全員が加入するようになればよいと思います。
長期的には、他大学の教養課程を修了した学生だけが入学するMedical school制度や、教育病院を認定して、そこで学生を少人数制で教育するということも考えられると思います。
この1年間、Iowa大学、Minneapolis小児病院、California州立大学Irvine校、Newcastle大学、Liverpool大学と、多くの海外の大学で実習見学させていただきました。最初は、海外の大学では何か日本とは違ったことをやっているのではないかとか、箔がつくのではないかと思っていました。
しかし、実習を通して多くの学生や先生と知り合い、いろいろな考え方を知ることができました。そして判ったことは、どの国の学生や、先生も一生懸命医学に向かっていることです。そして、私がなによりも海外での実習で感じたのは、「外国に行くことがいいこと」とかそういうことではなくて、
「私達が母国語で医学教育を受けることができるということがどれだけすばらしいことか」ということです。、
多くの国では、医学教育は英語でなされています。Newcastle大学で出会ったマレーシア人の留学生は英語がもちろんはなせます。もちろん、彼らはすぐに海外の大学で研修を受けたり、学会に出席したりすることができるでしょう。ただしこれを国際的というかどうかは疑問があります。
日本の医学教育は閉鎖的だとか、遅れているとかいう人もありますが、決してそんなことはないと思います。医学というのは人間を扱うものですから、教育を自国語で行えるということはどれだけすばらしいことでしょうか。
日本の医学を世界的なレベルにまで高めて、母国語で教育を行える環境を作ってくれた先人達に感謝し、是非それに続きたいと思います。
今回この機会を与えてくださった,日本医学教育振興財団のみなさま、外国人にもかかわらず私達を暖かく迎えてくれたNewcastle大学の先生方、留学生だからといって特別扱いしなかった学生達、今回留学するに当たって便宜を図っていただいた大阪大学の先生方ありがとうございました。
また、日本人の他の3人の学友にも恵まれ、とても楽しい実習を過ごせたことを感謝しています。
Grand Tour 1997年にサザンプトンにで実習をされた内野先生の体験記です。内野先生の旅行記は写真もふんだんに入っていますので、様子を知りたい方はこちらのページもどうぞ。 |
宮崎医科大学生化学第一講座 2002年にNew Castle upon Tyneに財団からの派遣で実習に行かれた三苫さんの体験記が載っています。同HPにはFlorida大学に研修に行かれた鳥口さんの体験記も載っています。宮崎医科大学の学生さんで、海外実習に興味がある方は熱心な教授がいらっしゃってうらやましいですね。 |
Deep Forest 医学生のHamuteruさんのホームページです。Floridaの大学の移植外科での学生実習の体験記が載っています。 |
Sunny Days 医学部6年生のKaoriさんのホームページです。Cleveland Clinic で実習したときの日記があります。報告の形でまとめられることを期待しています。 |
アメリカの移植事情を実際に体験してみよう!
今回11月14日に渡米し、15日から19日までの5日間ダラスの移植外科にて見学をさせていただきました。「せっかくアメリカに見学に来ているのだから、日本人と日本語で話していても仕方ないだろう」と気を遣っていただき、ちょうどローテーションで回られているレジデントの方についてまわることになりました。
始まりは、朝7時半〜8時の間に病棟に入院されている患者さんの容態のチェックです。移植後の患者さんなのですが、クリティカルな時期はすでに過ぎ免疫抑制剤のコントロールなどで入院されている患者さんが主だったと思います。まず研修医の方についていき、どういう会話を患者さんとしているか、どういったことを重点的に聞いているか、等を乏しい英語力ながら集中して聞いていたのですが、この点ではおおむね日本の病院と同じだったと思います。ただ、ひとつ驚いたことが、毎朝検査結果などを研修医の方がチェックするのですが、なんと!その検査結果や体重の変化、バイタル、尿量などの時間経過の表が患者さんごとの病室の壁に貼られているのです!!これは衝撃でした。研修医の方と一緒に回る回診の後に、10時ごろアテンディングの先生と回診をするのですが、その時などには患者さんはそのwall
chartを前に、「この数値が気になる」「この数値があがっているけど、大丈夫なのか?」といったことを積極的にアテンディングの先生に質問し、アテンティングの先生は懇切丁寧に説明されていました。それを見て私は「これは日本では見たことない風景だなー、日本ではここまでのことはちょっとできないだろうなー」と密かに思いました。
そして研修医の方の優秀なこと!必要な情報を朝の研修医の回診でパッパッとメモって、アテンティングとの回診ではメモ程度のことを即興でまとめてパッパッとそれぞれの患者さんをプレゼンをしていきます。「うーん、アメリカの研修医は日本では3年目以降の実力にあたると聞いていたけど本当だなーこりゃー」と目の前で繰り広げられる研修医とアテンティングの姿に納得です。
さて、なかなか肝移植がやってきません。こればかりはドナーがでないとどうにもならないので仕方ありませんね。しかし、そこは上野先生、私にアメリカの医療を少しでも多く体験させてくれようと色々見せていただきました。肝生検なども、日本とは違ってエコーを使わないんですね。ちょっと怖いですね。レジデントの先生に聞いてみたところ、「エコー?使わないよ、必要ないじゃん」「・・・」必要ないのか・・・・。ここらへんは医療経済とのかねあいなんでしょうね。 アメリカにきて7日目についにドナーがでました。夜中にレジデントの先生に起こしていただいたのですが、寝ぼけていた時に電話をとったので最初なにが起こったのか理解できませんでした。恥ずかしいですね。寝ぼけ眼を擦りながら、飛行機で隣町まで。飛行機で取りに行くのは知ってたけど、怖いですね。うれしいことにドナーのオペに手洗いさせていただきました。脳死移植が少ない日本では学生が手洗いできるなんてあり得ないですね。なかなか貴重な体験です。心臓外科なんかで人工心肺に載せる時に心臓を止まるのを何度も見てきましたが、このオペでは、止まったらもう二度と動かないのです。そういうこともあって、心臓が止まる瞬間はなんとも言い難い気持ちに包まれました。医学生として、移植外科に興味がある物としては、脳死は人の死と理解しているつもりでしたが実際に体験してみると感情的に割り切れてない自分がいたりして、意外にショックなものですね。非常にいい経験でした。
病院にレジデントの先生と摘出した臓器と一緒に帰ってきました。で、そのまま移植のオペです。残念ながら手洗いはできなかったのですが、オペを見ることはできました。台に乗っていても、深い場所だと見えないので困っていると外回りの看護婦さんがビデオを付けてくれまいた。いい人達ばかりですね。ただビデオの場合オリエンテーションが分かりにくくてちょっと何をしてるのか分からないですね。ここらへんは経験の差なんでしょうか。
オペも上手くいって、患者さんはICUへ。今日は徹夜だったので回診が終わった後に何もなかったら帰って仮眠でも、と思っていたのですが、回診の後、アテンディングの先生に新患のプレゼンテーションを明日してみないか。と言われたので、ここで引き下がるのもなんか恥ずかしいですし、引き受けます。「ヒー、英語で病歴とかとるのかー」もうパニックですよ。ただ、上野先生がバックアップについて下さったのでなんとかやり抜いて次ぎの日のプレゼンもなんとかなりました。患者さんも僕の変な英語によく耐えて協力していただいたんですけどね。
さて、総じての感想ですが。アメリカの医学教育は日本よりも数段上というのは、本当のことなんだと思います。ただ、それに関してはシステム上のことが非常に絡んでいると思いますし、これから日本の医学教育も良くなって行くと期待しています。そして医療のレベルやシステムの違いについてですが、これは一長一短だと思います。実際に提供している医療というのはそれほど変わらないものじゃないでしょうか?ただ、システムはアメリカの方が分業化が進んでいるために、病棟でエコーを撮るなどいったことが簡単に行えません、この点は日本の方が楽でいいなーと思いました。
僕が体験した多くのことは上野先生のダラス通信で文字で確認できることです。しかし、実際に自分の目で見たり、体験したものと文字から想像していたものと違うなという部分が結構ありました。そういう意味では移植に興味があり、アメリカに臨床留学などを考えている人などは一度、上野先生の下を訪れてみてはどうでしょうか?
英語が苦手でも得るものは多くあると思います。でも英語が得意だったら同じ経験でももっと得るものが多いかもしれないです。そういう意味ではできる限り英語を勉強して行かれた方がいいかもしれません。
今日から日本の医学生が見学に来ています。朝は、患者さんと同じアパートのTwice Blessed
Placeから病院へ出かけます。まず、回診について、回診見学。回診の前にはレジデント君について診察の仕方の見学です。 昼間には、緊急の手術が入ったので、手洗いをして、手術を見学します。靴のままではいることが驚きだったようです。 手術が終わると、時間ができました。常のことですが見学者が来るとサービスが静かになります。そんなわけで、ダラス郊外のモール見学に出かけます。アメリカのモールは大きいでしょう。かれは、その中でも携帯電話に興味があったようです。 モールの次は、テキサスステーキです。おきまりですが、Trail Dustへステーキを食べに。このとき、レジデントも一緒に行くことになっていたのですが、たどり着く前に呼ばれて病院にもどらなければいけなくなってしまいました。後でわかったことですが、コーディネーターが間違えて腎臓内科の患者を移植外科に回してきたようです。怒って電話を掛けてきました。 彼は、アテンディングたちの評価を非常に気にしているようで、管理人と夕食をとても一緒に食べたかったようです。旅行の前に出かけましょうね。 ちなみに、Trail Dustで彼が頼んだのは"Cowboy"大きなステーキに満足してくれたでしょうか。 実はこの彼、右脳先生のところの研修医とお友達らしいです。その研修医のお友達が買い込んで処分に困ったPalm本を彼にあげたとか。世の中狭いですね。 今日の紙芝居(クリックすると拡大します。Click a picture to enlarge it.) |
実は今度、electiveの期間にアメリカの病院のローテーションを回ろうと思っています。
いくつかの病院で何だかんだ交渉があって一応、「その期間なら空きはあるから後は書類一式を送れ」
という段階にまで来ているのですが、とあるクリニックで「certificate of malpractice
insurance or general liability insurance」の提出が義務付けられているのです。
訪れる予定の他の病院は大抵、ビジターにも保険を良心的な値段で提供してくれるのですが、ここばかりは「visiting
studentには提供していない。自分で用意しろ。」の一点張りで、「じゃあどこか個人で買えるところを教えてくれ」としつこく質問しても一切返事が返ってきません。
実際、ネットで調べても学生用の商品は無く(医者用ばかり)、大学(日本の)側は、「海外旅行保険の賠償責任の項で主張するしかない」とのことなのですが…。
結局、海外旅行傷害保険でgeneral liabilityがカバーされると言う日本の保険会社側の主張を信じて押し通してみました。あくまで学生実習は仕事ではなく、無報酬なので、通常の賠償責任(廊下で躓いて機械を壊したとか)で通る、という解釈のようです。先方から返事が来たらまた報告したいと思います。
malpractice insurance 投稿者:sarah 投稿日:2004/10/18(Mon) 00:53 No.1406
更新記録
●2002年5月1日:新規掲載
●2003年12月30日:読者の体験記を追加しました。